スポーツ×テクノロジー - Flying

テクノロジーの進化によって、スポーツという言葉はどんどんとアップデートされています。既存のスポーツが進化したり、新たなスポーツが生まれたり。そんな、ワクワクするスポーツ×テクノロジーという分野をウォッチし、皆さんとそのワクワクを共有したい。そうして生まれたのが、Flyingです。

サッカーはテクノロジーをどう扱うべきか。ゴールラインテクノロジー導入までを振り返る。

 

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 サッカーは、テクノロジーの導入が遅れているスポーツです。遅れているというか、FIFAの会長ジョセフ・ブラッターを中心に、業界の権力者達が「サッカーは人が判断してこそサッカー」みたいな意見を主張して、人によるレフェリングとジャッジを尊重してきた過去があるからです。でも漸く、そんなサッカーにもメスが入り始めています。

 

 

 前々からテクノロジー導入の意見は出ていたものの、大きなきっかけとなったのは2010年。ワールドカップ南アフリカ大会で、ドイツ対イングランドにおけるフランク・ランパードの明らかなゴールが取り消されました。ゲームバランスを崩壊させたこの誤審に、批判の声が世界中から寄せられました。それ以外にも誤審が少なくなかった大会となってしまい、サッカー世論のテクノロジー導入を要求する声がどんどんと大きくなっていきました。

 

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 やがて、年が明けた2011年の12月、ブラッター会長はゴール判定に関してのみ、翌年の2012年からテクノロジーを導入していく意向を表明しました。サッカーのルールを決めるIFABは、2〜6月に10社のテクノロジーをテストし、7月にどれを採用するかを決定するか決める、という予定を立てました。

 

 最終候補に残った2社のうち、1社はホークアイ(Hawk-Eye)システムです。ホークアイはミサイルや脳手術に使用されるシステムの開発をする企業の子会社で、2000年前後からスポーツ関連の技術開発に着手。2011年にソニーが買収したため、今はソニーの子会社になっています。

 

 ホークアイの仕組みは、両ゴール付近に設置した6〜8台のハイスピードカメラで違う角度からボールを撮影し、映像ソフトウェアで解析することで瞬時にボールの正確な位置がわかる、というものです。テニスや陸上競技などで既に使われいるシステムでもあります。

 ホークアイはこんな感じ。

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出典: http://cdn.soccerbible.com/

 

 対するもう1社がゴールレフ(GoalRef)システムです。こちらはボールにマイクロチップを仕込み、磁場の変化によってゴールを判定するという仕組みになっています。

(両者の違いがわかりやすく図解されているのがこちら。)

 どちらのシステムも1秒以内にゴールか否かを判断できる優れたシステムです。これら2社のシステムは、最終候補としてイングランドベルギーの親善試合を含む全3試合でテストし、どちらも合格しました。テストでは100万ドル以上が費やされたと言われています。

 

 

 仕組み以外にも2社のシステムには違いがあります。利用料金と判定の映像があるかどうか、という2点です。

 利用料金はホークアイが1会場につき約20万ドルかかるのに対して、ゴールレフはそれよりは安価なようです。また、ホークアイソニーが映像リプレイも公開する、としていますがゴールレフにはそれがありません。

 

 

 この下半分がホークアイのCGによるリプレイです。プレミアリーグのファンの方にはもうお馴染みかもしれませんね。

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出典: https://playtheadvantage.files.wordpress.com

 

 ゴールラインテクノロジーは、FIFA主催の大会では2012年のクラブワールドカップでどちらのシステムも初めて導入されました。またプレミアリーグは2013-2014シーズンから、世界各国のリーグとしては初めてゴールラインテクノロジーを導入したリーグとなりました。

 ゴールラインテクノロジーの設置料や運営費はリーグが支払うため、システムの導入からどのシステムを使うか、などの決定権はリーグの主催者が持つことになっています。Jリーグでは、その高いコストが故に未だ導入には至っていません。UEFAは2016年のCLからの導入を検討しているようです。

 

 

 斯くして、テクノロジーが徐々にサッカーに浸透していきそうな環境がようやく、整い始めました。

 

 サッカーは時間を止めることがあまりない、スピード感を大切にするスポーツです。なので、バスケットボールやテニス、アメリカンフットボールと違って、テクノロジーの導入に反発する気持ちも理解できます。スピード感を大事にすることで誤審を許容するのか、公正な試合を目指してサッカーの醍醐味を奪うのか、これは非常に難しい選択です。しかし、インターネットによって世論の声が可視化している中で、誤審により批判される審判のことを思うと、このゴールラインテクノロジーの導入は必要なものにも思えてきます。

 

 

 ゴール以外のシーンの話をすれば、ゴールと同じくらい試合への影響が大きいシーンとしてはオフサイドも挙げられます。オフサイドに関しては、

headlines.yahoo.co.jp

こんな話もあったりするので、導入すべきなんじゃないかなあ、と思ったり。しかし、ゴールよりもオフサイドになり得る機会の方が基本的には多いため、それこそスピード感に影響が強く出てしまうかもしれません。難しいです。

 

色んな要素が絡むサッカーとテクノロジーの話。これからも要注目のトピックです。

 

 

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